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「コラム」 私のおすすめ空間(第7回)

更新日:4月8日

門田睦雄(昭和40年卒)


アクロス福岡

 昨年10月に帰省した際に、現在福岡で進んでいる「天神ビッグバン」の様子を覗いてきました。天神ビッグバンとは、都心が空港に近いため建物の高度が制限されていた福岡で、国家戦略特区に指定されたのを機に高さ制限を緩和し、容積率(敷地面積に対する建築可能延べ床面積の割合)にボーナスを与えて、ビルの建て替えを促進する都市計画です。セットバック(建物を道路から離すこと)や、公開広場をつくること、地下街との連結などにより、開発事業者は容積率ボーナスが獲得できます。これにより、住みやすく活動的なアジアのハブ都市となることを目指します。これまで東京を中心に紹介してきましたが、今回はこんな福岡の面白い空間を紹介します。


 アクロス福岡は、福岡市の中心である天神の県庁跡地に複合施設を造る計画で、そのためコンペ(競技設計)が実施されました。提示された数案の中で、ステップガーデンという形で、南側壁面全体を階段状に緑化する提案が当選しました。こういう構想はあっても、なかなか実現できないのが現実ですが、周囲に環境的インパクトを与える空間を創ろうという、発注者側の意気込みがこの案を選んだのでしょう。そして1995年に完成しました。


南側の天神中央公園からの全景。もはや“鎮守の森”といった様相。


 この建物の南側は天神中央公園で、大きな芝生の広場があり、ここからアクロス福岡の南面を望めます。階段状にせりあがる壁面には多くの樹木が植えられ、完成当時は木々も小さくて緑の段々畑という様相でしたが、昨年行ってみると木々は大きく育ち、「実生(みしょう)」という鳥や風が運ぶ種から自然に育つ木も含めて、ポッカリと里山が出現していました。広場から観ると、登ってみたい欲望にかられます。実際に誰でも立ち入り可能で、私も途中までと思い登り始め、結局頂上まで登りました。上から見下ろす景色も爽快です。


(左)南西側からの外観。階段状の“ステップガーデンがよく理解できる。

(右)南側からの見上げ。中央のガラス部から、内部の吹き抜けへ光を取り込む。


(左)ステップガーデンの階段。木々の間を縫って登って行く。

(右)上部からの眺め。まさに小山から福岡の街を見下ろす風情。


 この建物の中は大きなアトリウムになっていて、南側には外の木々が階段状にせりあがる様子がガラス越しに見え、自然を実感できるインテリア空間になっています。このアトリウムを取り巻いて、公共施設やオフィス、会議室などが配置され、地下には音楽ホールもあり、福岡の文化を盛り立てる建物になっていると感じました。


内部の吹き抜け。南側からの光は、木洩れ日となって心地よいだろう。


 建物に樹木を植えるには、土壌の積載荷重が構造に負担をかけること、潅水の問題、根が張って防水層を傷める問題など、技術的な課題が幾つもあります。当初の設計や施工でこれをクリアーしたのも見事ですが、その後のメンテナンスが充実していたからこそ、こんな小山に育ったのでしょう。建築の評価は出来てすぐにかなり定まるところがありますが、何十年後になっても当初と同じように新鮮さを保っている建物こそ、本当の名建築です。そのような建築に、与えられる賞に「ロングライフ建築賞」があります。アクロス福岡は、完成当時より更に魅力が増しており、どんな賞を与えればよいのでしょうね?


(左)“アクロス山”の解説。鳥が飛来し、運んだ種から樹種も増えたとある。

(右)上部から南側広場を望む。正面の白い建物は済生会福岡病院で、北側の窓から陽光に映える“アクロス山”の木々が見えるので、入院患者に好評という。


 このような素晴らしい建物ですが、1点だけ残念だったのは、南面のステップガーデンと内部空間が動線として連結されていないのです。ステップガーデンを登るとき、途中で中に入ろうとしたのですが、内部に通じる入り口は全て閉鎖されていました。頂上まで登ったのはこの理由もあります。管理上のやむを得ない理由があるのでしょうが、当初計画通りに内外が連結されれば、もっと素晴らしいのにと思った次第です。


以上

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