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「コラム」 私のおすすめ空間(第6回)

門田睦雄(昭和40年卒)


東京カテドラル聖マリア大聖堂

 これまでの5回は誰でも行きやすい公共空間を紹介してきましたが、今回は素晴らしい教会建築・東京カテドラル聖マリア大聖堂です。

 1964年に竣工、設計は丹下健三です。前川國男、谷口吉郎という巨匠2名と、コンペで競っての設計獲得でした。丹下健三と言えば、何といっても東京オリンピックの代々木体育館が有名ですが、東京カテドラルもなかなかのもので、建築関係者にはこちらが一番好きという人も多数います。


 前面の道路から見える外観は、縦縞状にステンレスが張られた、緩やかな曲面の壁の組み合わせ。レンガ造りの伝統的教会とは異質のたたずまいです。これだけで、内部はただならぬことになっていそうだとの予感で胸が高鳴ります。横にある高さ60mにも達する塔は、上部が次第に細くなり、縦に幾つかの鐘が取り付けられていて、教会であることの目印にもなっています。


敷地入り口からの外観。壁を構成する大きな版は互いに寄り添う形になっており、接合する4カ所は、縦長のスリットで、ここから光を取り入れる。


(左)道路から塔を望む。    (右)右の低層部がエントランス。左は背面側のスリット。


 内部に入るとコンクリートの壁が、幅を狭めながら滑らかに上部にせりあがって行く大空間で、柱はありません。この空間は、HPシェルという大きな曲面のコンクリート版8枚を、寄り添うように組み合わせる、特殊な構造により実現しました。コンクリート版の接合部は直接接合させず、スリット状の開口になっていて、壁面は4カ所の縦長の窓、天井部は十字型のトップライトとして、光を取り入れています。この内、祭壇の背面の窓は、薄く剥いだオレンジ色の大理石が張られ、外部から日光がさすと透過し、ステンドグラスのような味わいです。壁全体がコンクリートの中で、ここだけ明るい色があり、空間全体の正面であることを強く主張します。


正面の十字架の後ろの縦長窓は、背面から日光が差すと、薄く剥いだ大理石が光を透過する。(この日は光が当たっていなかったので、目立っていない。)


 このように内部も伝統的教会建築とは全く異なる斬新な空間ですが、よく見ると身廊とそれに直行する袖廊があり、その交差部の奥に祭壇の置かれる内陣がある構成は、伝統的バシリカ型教会を、大胆にデフォルメしたものだと分かります。見事な新しい教会といって良いでしょう。建築として、機能・意匠と構造が見事に整合しています。


 この教会へのアクセスは、東京メトロ・有楽町線の護国寺駅から徒歩10分、江戸川橋駅から徒歩15分です。でもJR目白駅から学習院大や日本女子大を横目に見ながら、アカデミックな雰囲気の道を歩いて行くのがお勧めです。教会見学の後は、向かいの椿山荘でお茶でも飲んで帰ると、一日の散歩コースとしてはなかなかのものです。


以上

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