門田睦雄(昭和40年卒)
川崎ソリッドスクエア
前回、川崎地下街・アゼリアを紹介したので、同じJR川崎駅周辺にある川崎ソリッドスクエアまで足を延ばしましょう。JR川崎駅西口を線路沿いに5~6分、東京方面に歩くとこのビルに付きます。この線路沿いは桜並木で、アプローチとしてちょっと「いい感じ」です。この流れを受けて、このビルの前庭も小公園になっており、大きな石がアートとして並んでいます。もともとここには明治製菓の川崎工場があり、そこが再開発されてこのビルは建てられました。24階・高さ約100mの二つのオフィス棟が、L字型に立つツインタワービルですが、特徴はこの2棟に二辺を挟まれる形で建つ、低層棟のフリーゾーンです。竣工は1995年ですから、もう30年近くたっていますが、当初通りの雰囲気を保っています。
(左)駅前から多摩川方面に続く桜並木。 桜の季節には奇麗だろう。
(右)ソリッドスクエア外観。前庭が桜並木と一体になり、市民に公開されている。
(左)フリーゾーン外観。ガラスのトップライトは開閉式で、その下に室内“池”がある。
(右)フリーゾーンにある商業施設の看板。マック、タリーズ、ドトールなどの飲食施設と、郵便局、医院などの生活施設が並ぶ。
フリーゾーン1階には大きな丸い池があり、2層吹き抜け、無柱の大空間で、天井の中央部にはローマのパンテオンを思わせる穴が穿たれ、その上には開閉式のガラス屋根が架かっています。室内ですが、完全に室外の雰囲気で、池の周辺にはクラッシックな木製のベンチが置かれ、自由に使うことができます。周辺にはコーヒーショップやハンバーガー屋、とんかつ屋などのレストランを有す商業施設があります。なんといっても、“ひろびろ”、“ゆったり”しており、賑やかさを主題とする商業空間とは一線を画すユニークな空間です。読みたい本でも持ってきて、ここで一日を過ごすなどというリッチな体験もできます。私自身是非一度、雨の日に、開いた屋根から池に落ちる雨をみつめ、ベンチでのんびりしたいと思っています。そして、このゆったりした空間を、市民に開放した建築主の英断をたたえたい気持ちです。
池の水深はごく浅いが、十分に深さを感じさせる。天井中央には、パンテオンのドーム頂部を思わせる円形の開口部があり、その上に開閉式ガラスフードがかかっている。外周は2方向がガラスで解放され、外部とも一体になっている。
(左)池の周りの二辺は商業施設が並ぶ。室内の水面なので波が立たず、鏡のように周辺の景色を映す。
(右)ベンチに座った時の目線で見ると、池はこんな感じで広がり、外部空間へとつながって行く。
(左【参考】)ローマのパンテオン。古代ローマ時代の代表的な建築物の一つで、紀元前27年頃、アグリッパによって建てられた。しかし火災により破壊し、現在残っているのは紀元120年頃再建されたもの。正面にはアグリッパに敬意を表した碑文が刻まれている。
(右【参考】)パンテオン内部。ドームの頂部には、「オクルス(oculus)」と呼ばれる直径約9メートルの穴が空いており、自然光が差し込み、雨も降りこむ。雨水は勾配のついた床で集水・排水される。ガラスの無かった時代の室内外のつながり方として秀逸。
以上
*記事掲載:2024年10月12日
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