門田睦雄(昭和40年卒)
川崎地下街・アゼリア
前回、福岡の天神地下街を紹介しましたが、今回は日本の地下街の中興の祖ともいうべき川崎地下街・アゼリアの紹介です。
それまで川崎駅東口は、周辺の商店街やJR川崎駅、京急川崎駅及びバスターミナルもあり、平日・休日を問わず多くの人で混雑していました。これに対し、歩車分離による交通安全と混雑緩和、駅間や商店街との連絡通路機能の強化、そして周辺施設と一体となった商業空間の創出を目的に、駅前地下街が計画されました。以下の写真は、地下街により実現した川崎駅東口の姿です。
(左・右)JR川崎駅からの地下街への導入部 駅の中央通路からスムーズな人の流れが出来ている。
(左)地上のバスターミナル。 どうしても1階が暗くなるデッキ方式に比べ、「地上」の良さが確保されている。
(右)既存商店街との連絡口。地下街から階段を昇ると、道路を渡ることなく商店街に繋がる。
しかし、1980年に起こった静岡駅前地下街の爆発は、今後の地下街に大きな影響を及ぼします。事故の後、当時の建設省が「今後地下街の建設を許可しない」方針を打ち出したのです。これに対し既に計画に着手していた川崎地下街は、厳重な防災対策を施して建設省を納得させ、再度地下街建設の路を開きました。
厳重な安全対策とは、明快な動線、広い通路、多数の避難口の設置、厳格な防火・防煙区画による火災の拡大防止などです。この結果見通しの良い、分かり易い地下街が誕生しました。また天神地下街の「黄昏のロンドン」に対し、白いタイルや白い大理石、鏡面仕上げステンレスなどの明るい色彩や素材を用いて、地下ながら昼間の雰囲気を出しています。明快な動線の下に、グルメッセ、ライフグランド、デリチカという明瞭な機能区画が形成され、分かり易い構成になっています。
明快な動線と、機能ごとに区画された街区。上部(赤) がグルメッセ、下部左(青)がライフグランド、下部右(緑)がデリチカの各エリア。図中の数字は各出口の番号。
(左)ライフグランド街区入り口。(右)奥行きのある店舗。
駅前広場という大面積に建設したため、店舗の奥行きもたっぷりとれて、道路下地下街に見られる「浅い店舗」の印象はありません。またグルメッセはかなりの長さがあり、そこに全国の飲食店が入っているので、店選びに悩むほどです。
(左)明るい仕上げ材料、もちろん不燃。(右)デリチカ街区入り口。
(上4点)グルメッセ街区には各種の飲食店が並ぶ。
ただ、一般建築に比べ内部空間のみで「外観」が無く、1階分の高さでデザインの勝負をしなければならないところは苦しいと言わざるを得ません。中央部は2層吹き抜けで、ガラス超しに地上部が覗けるようになっていますが、その後できた西口のショッピングセンター・ラゾーナに比べ、派手さでは引けを取ります。今後の地下街で、全体的に2階分の高さを持つものが出来れば、各地のショッピングモールに見るように、地下街と言えどかなりデザインの勝負ができる気がします。人は歩いていて大体2階くらいまでしか目に入っていませんから、2層あるというのは重要なことなのです。
(左)JR駅からの導入部のガラス屋根。(右)導入部に続く吹き抜け部。
もう一つは一般論ですが、地下街の「シェルター機能」に注目すべきだと思います。これだけ気象が厳しくなっている現在、夏の暑さ、冬の寒さに対するヒートシェルター機能を十分に果たすには、通過機能に加え「滞在」要素を盛り込む必要があるでしょう。多くの人が避難できるには、先ずは一定時間、場合によってはかなりの時間滞在できる空間や椅子などの器具の設置が望まれます。そして、ウクライナで地下鉄駅がシェルターになっているように、非常時には危機からの避難所にもなります。
以上
*記事掲載:2024年9月6日
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