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「コラム」 私のおすすめ空間(第10回)

更新日:11月5日

門田睦雄(昭和40年卒)


天神地下街


 今回紹介するのは、再び福岡に戻って天神地下街です。1976年開業のこの地下街は、天神地区の地上の交通混雑を解消するのが第一の目標だったようですが、冬でも明るい陽光が降り注ぐ関東と違って、どんよりと曇って風も冷たい冬の福岡に、快適な歩行空間としてぴったりフィットしたようです。異常な暑さが続く最近の夏にも、クーリングシェルターとして最適でしょう。地下街という空間の公共的意味が、より強く実感される昨今です。


 全国に多数ある地下街の中でも、天神地下街は通路幅も広く、何より造りが本格的なのが売り物です。建築業界で通称“ピンコロ石”という、円弧を描く石畳のような床、植物を模したブロンズ調の天井ルーバーなど、とてもリッチに仕上がっています。また各店舗の銘板も規格化されて統一性があり、街並みとしての良さが出ています。これほどの格調高い地下街は他にはないかもしれません。この地下街のデザインコンセプトが、「黄昏のロンドン」だったと聞いていますが、暗めの通路と暖色の明るい商店照明の対比は、それにふさわしい完成度だと思います。


(左)黄昏のロンドンの雰囲気が漂う。(インターネット公開写真より)

(右)通路も店舗もゆったりしている。


(左)ブロンズ調のリッチな天井ルーバーが高級感を漂わせる。

(右)地下鉄への連絡口も明快


(左)各店舗の標識も共通性を持たせ、良くデザインされている。(インターネット公開写真より)

(右)隣接ビルとの連絡口。滑らかな導入が、地下街が経営上成り立つかの鍵となる


 ただ夜はそれでよいのですが、昼間からここに入ると、薄暗くて気持まで暗くなってしまいがちです。市民から「暗すぎる」との声があるのももっともです。LEDの普及で、小さな光源から様々な色が出せる現在、昼間は明るい「夜明けのパリ」に、夜は「黄昏のロンドン」に切り替えられる照明は出来ないものでしょうか。


 地下街は火災拡大防止上のため、隣接する建物と防火的に厳密に区画する必要があります。そのため視覚的にビルとは繋がりにくく、垂直方向のつながりに乏しくなりがちです。しかし最近では、ガラス屋根から空を覗かせたり、アーバンコアとして縦の動線と機能的にうまくつないだ地下街もあります。天神ビッグバンで新しいビルとうまくつながるものが出てくれば、この地下街の魅力がもっと増すことでしょう。


 地下街で現存するものでは、映画「Perfect Days」で、主人公がよく飲みに行く場面として登場した、浅草地下街が最も古いものです。その後日本の各地に地下街が出現しました。しかし1980年の静岡駅前地下街のガス爆発と火災により、地下街は危険が大きいものと認識され、当時の建設省が新しい地下街を認めない方針を固めた時期がありました。それをどう乗り越えたか、追ってレポートします。


以上


*記事掲載:2024年8月5日

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