門田睦雄(昭和40年卒)
新宿住友ビルのアトリウム
新宿住友ビルは、前回紹介した新宿三井ビルの隣にあります。新宿西口の超高層ビルとしては老舗で、1974年竣工ですから来年で半世紀になります。これくらい古くなると超高層ビルでも、諸機能の刷新や耐震性向上のため、建て替えを選ぶところも多いのですが、このビルは使いながらのリノベーションを選択しました。大きな改造点は耐震機能の向上と、ビルの足許にガラスの大屋根をかけたことです。
耐震改修は、東日本大震災でその影響が顕著にみられた長周期地震に対応するためです。このビルは、三角形平面の3つの隅を小さく切り取った部分に、それぞれ設備機械室があります。ここに特殊な制振装置を設置することで、入居者への影響無く改修できました。
手前がガラスの大屋根。(樹木の向こうに見える)。後方がビル本体で、高層建物の3つの隅の各階に設備機械室があり、ここに制振装置が設置された。(左側の5本の縦線部が設備機械室)
この建物の足許周りの庭は、もともとの淀橋浄水場をイメージしたクールなものでした。ここにガラスの大屋根をかけることで室内化し、雨風や寒暖の影響を受けずに快適に過ごせる大空間を作ったのです。この計画は20年来の夢だったのですが、諸基準の壁が高く、なかなか進展しませんでした。それが東日本大震災の経験もあり、2016年にこの地域が国家戦略特区に認定されたのを機に、非常時には2,000人以上収容できる屋内避難広場として、実現したのです。
ビルの外周全部がアトリウムになっていますが、一番大きい空間は2,000人収容の三角広場で、天井も高く色々なイベントを開催できます。改修完了がコロナ禍の最中だったので、記念の大イベントは開かれませんでしたが、これから次々と開催されることでしょう。イベントが無い時は、広々とした空間に椅子が置かれ、ゆったり過ごすには格好の場所となっています。また、街角ピアノもあり、昼の時間などには演奏者は順番待ちです。
広々とした室内広場は、通常開放されており、多くの人が自由に使っている。
(左)広さを利用してショーや展示会などのイベントが開催される。これは展示会の模様。
(右)街角ピアノと、演奏の順番を待つ人。
三角広場に繋がる形でレストランに面した広場があり、こちらは食事も楽しめます。日本では気候の関係で、ヨーロッパのように屋外での飲食は盛んではありませんが、快適環境のここではその雰囲気を味わえます。また、三角広場でイベント開催中は、街角ピアノはこちらに移されます。
レストランの屋外席は、ガラス屋根があるので、雨や寒い日、暑い日でも快適。撮影したのが夕方の客の途絶える時間帯だったので、この写真では寂しく見えるが、実際はもっと活気がある。
新宿住友ビルのアトリウム空間は、「災害時の屋内避難広場」という意味でも、広大なアトリウムという点でも、画期的で見ごたえがあります。建築技術的にもいろいろ工夫を凝らして実現にこぎつけました。新宿に行った際は是非一度覗いてみて下さい。
以上
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